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東京地方裁判所八王子支部 昭和51年(わ)1448号 判決

主文

被告人新居明を懲役一〇月に、被告人新内正彦を懲役四月にそれぞれ処する。

被告人両名に対し、本裁判確定の日から二年間それぞれその刑の執行を猶予する。

控訴審及び当審の訴訟費用はその二分の一ずつを各被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人新居は、東京都調布市上布田町三五三番地所在トヨタ東京カローラ株式会社調布営業所の所長兼業務課長、同新内は同営業所新車課係員で、いずれも自動車販売の業務に従事していたものであるが、被告人らにおいて、自動車を販売した顧客が、自動車の保管場所を有しないか、あるいは他県に居住しているため、自動車の新規登録をすることが困難であることから、同営業所が業務用に借用している同市上布田町内の宅地約五〇坪の所有者鈴木留吉の名義を冒用して、右顧客が同所に自動車の保管場所を確保している旨の内容虚偽の自動車保管場所使用承諾書を偽造して、所轄警察署長から、自動車保管場所証明書の交付を受けたうえ、陸運事務所に虚偽の自動車新規登録を申請して登録原本に不実の記載をさせようと企て、

第一、被告人新居は、

一、別紙犯罪一覧表(一)記載のとおり、同表「共犯者」欄記載の者と、それぞれ共謀のうえ、昭和四六年一月二一日ころから、同年七月二一日ころまでの間、前後一一回にわたり、前記営業所において、行使の目的をもつて、ほしいままに、自動車保管場所使用承諾書用紙を使用して、自動車の使用者古沢四郎ほか一〇名分について、それぞれ同表の「虚偽記載内容」欄のとおり、真実と異なる「保管場所の位置」、「使用者の住所」、「使用期間」を各記載し(但し、佐野譲二、川上周夏関係は真正)、作成名義人欄にいずれも「鈴木留吉」と冒書したうえ、その名下に有りあわせの鈴木と刻した印を冒捺し、もつて、同人作成名義の自動車保管場所使用承諾書一一通の各偽造を遂げ、これをそれぞれ真正に成立したもののように装つて、同年一月二一日ころから同年七月二六日ころまでの間、調布市国領町二〇番地警視庁調布警察署において、同警察署長に対し、その情を知らない佐藤澄子を介して各提出行使し、

二、別紙犯罪一覧表(二)記載のとおり、同表「共犯者」欄記載の者と、それぞれ共謀のうえ、同年一月二六日ころから同年七月二九日ころまでの間、前後一一回にわたり、同都国立市北三丁目三〇番三号東京都陸運事務所多摩支所において、同支所係員に対し、情を知らない同表「書類提出者」欄記載の柏木眞之らを介して、各使用者の真実の使用の本拠の位置が同表「真実の使用の本拠の位置」欄記載の場所であるのに、同表の「虚偽記載内容」欄記載のとおり、虚偽の「使用の本拠の位置」などを記載した(但し、佐野、川上関係は前同)自動車新規登録申請書に、その添付書類として、前記第一―一によつて発行を受けた調布警察署長作成名義の内容虚偽の使用者の住所、使用の本拠の位置などの記載がある自動車保管場所証明書、及び前記第一―一の際複写して作成偽造していた第一―一と同一内容の鈴木留吉作成名義の自動車保管場所使用承諾書を添え、これらがいずれも偽造又は内容虚偽であることの情を知りながら、あたかも真正に成立したもののように装つて一括提出行使して虚偽の申立てをし、そのころ、その都度、同所において、情を知らない同係員をして、同表の「虚偽記載内容」欄のとおり、登録原本である自動車登録フアイルに各不実の記載をさせ、それぞれ即時同所にこれを備え付けさせて行使し、

第二、被告人新居、同新内の両名は、東海林節夫と共謀のうえ、

一、別紙犯罪一覧表(三)記載のとおり、同年三月三日ころから同年七月七日ころまでの間、前後二回にわたり、前記営業所において、行使の目的をもつて、ほしいままに、自動車保管場所使用承諾書用紙を使用して、自動車の使用者阿部路男ほか一名分について、それぞれ同表の「虚偽記載内容」欄記載のとおり、真実と異なる「保管場所の位置」、「使用者の住所」、「使用期間」をそれぞれ記載し(但し、阿部路男関係は真正)、作成名義人欄に「鈴木留吉」と冒書したうえ、その名下に有りあわせの鈴木と刻した印を冒捺し、もつて、同人作成名義の自動車保管場所使用承諾書二通の偽造を遂げ、これをそれぞれ真正に成立したもののように装つて、同年三月三日ころから同年七月七日ころまでの間、前記調布警察署において、同警察署長に対し、情を知らない佐藤澄子を介して各提出行使し、

二、別紙犯罪一覧表(四)記載のとおり、同年三月二四日ころから同年七月一四日ころまでの間、前後二回にわたり、前記多摩支所において、同支所係員に対し、情を知らない同表「書類提出者」欄記載の今井英紀らを介して、各使用者の真実の使用の本拠の立置が同表「真実の使用の本拠の位置」欄記載の場所であるのに、同表の「虚偽記載内容」欄記載のとおり、虚偽の「使用の本拠の位置」などを記載した(但し、阿部関係は前同)自動車新規登録申請書に、その添付書類として、前記第二―一によつて発行を受けた調布警察署長作成名義の内容虚偽の使用者の住所、使用の本拠の位置などの記載がある自動車保管場所証明書、及び、前記第二―一の際複写して作成偽造していた第二―一と同一内容の鈴木留吉作成名義の自動車保管場所使用承諾書を添え、これらがいずれも偽造又は内容虚偽であることの情を知りながら、あたかも真正に成立したもののように装つて一括提出行使して虚偽の申立てをし、そのころ、その都度、同所において、情を知らない同係員をして、同表の「虚偽記載内容」欄のとおり、登録原本である自動車登録フアイルに各不実の記載をさせ、それぞれ即時同所にこれを備え付けさせて行使し、

第三、被告人新居、同新内の両名は、東海林節夫と共謀のうえ、

一、同年三月一八日ころ、前記営業所において、行使の目的をもつて、ほしいままに、自動車保管場所使用承諾書用紙を使用して、保管場所の位置欄に「調布市上布田町三五四」、使用者の住所欄に「調布市上布田町三五三」、使用の期間欄に「昭和四六年三月一八日から昭和四八年三月一七日まで」と各真実と異なる事項を記載し、使用者の氏名又は名称欄に「小笠原治郎」と記載し、作成名義人欄に「鈴木留吉」と冒書したうえ、その名下に有りあわせの鈴木と刻した印を冒捺し、もつて、同人作成名義の自動車保管場所使用承諾書一通の偽造を遂げ、これを真正に成立したもののように装つて、同月一八日ころ、前記調布警察署において、同警察署長に対し、情を知らない佐藤澄子を介して提出行使し、

二、同月二六日ころ、前記多摩支所において、同支所係員に対し、情を知らない柏木眞之を介して、使用者である日本高圧コンクリート株式会社(代表取締役小笠原治郎)の真実の「使用の本拠の位置」が千葉県千葉市新宿二丁目一番二〇号であるのに、これを「調布市上布田町三五三」と記載した虚偽の自動車新規登録申請書に、その添付書類として、前記第三―一によつて発行を受けた調布警察署長作成名義の保管場所の位置を「東京都調布市上布田町三五四」、使用の本拠の位置を「東京都調布市上布田町三五三」と、それぞれ真実と異なる内容の記載がある自動車保管場所証明書、及び石原貞夫作成名義の、自動車保管場所の位置を「調布市上布田町三五四」、使用者の住所を「調布市上布田町三五三」と、それぞれ虚偽内容を記載してある自動車保管場所使用承諾書を添えて一括提出し、もつて、使用者を前記日本高圧コンクリート株式会社、車名を「トヨタ」、登録番号を「多摩五五に六二五七」とする虚偽の自動車新規登録申請をし、情を知らない同係員をして、登録原本である自動車登録フアイルに使用の本拠の位置が「調布市上布田町三五三」である旨不実の記載をさせ、即時同所にこれを備え付けさせて行使し、

第四、被告人新居、同新内の両名は、東海林節夫と共謀のうえ、

一、同年五月二一日ころ、前記営業所において、行使の目的をもつて、ほしいままに、自動車保管場所使用承諾書用紙を使用して、自動車の保管場所の位置欄に「調布市上布田町三五四」、使用者の住所欄に「調布市上布田町三五三」、使用の期間欄に「昭和四六年五月二一日から昭和四七年五月二〇日まで」と各真実と異なる事項を記載し、使用者の氏名又は名称欄に「須永正三郎」と記載し、作成名義人欄に「鈴木留吉」と冒書したうえ、その名下に有りあわせの鈴木と刻した印を冒捺し、もつて、同人作成名義の自動車保管場所使用承諾書一通の偽造を遂げ、これを真正に成立したもののように装つて、同月二一日ころ、前記調布警察署において、同警察署長に対し、情を知らない佐藤澄子を介して提出行使し、

二、同月二七日ころ、前記多摩支所において、同支所係員に対し、情を知らない野口隆雄を介して、使用者である有限会社鴻文堂書店(代表取締役須永正三郎)の真実の「使用の本拠の位置」が埼玉県鴻ノ巣市本町一丁目一番一八号であるのに、これを「調布市上布田町三五三」と記載した虚偽の自動車新規登録申請書に、その添付書類として、前記第四―一によつて発行を受けた調布警察署長作成名義の保管場所の位置を「東京都調布市上布田町三五四番地」、使用の本拠の位置を「東京都調布市上布田町三五三番地」と、それぞれ真実と異なる内容の記載がある自動車保管場所証明書、及び、前記第四―一の際複写して作成偽造していた第四―一と同一内容の鈴木留吉作成名義の自動車保管場所使用承諾書を添え、これらがいずれも偽造又は内容虚偽であることの情を知りながら、あたかも真正に成立したもののように装つて一括提出行使し、もつて、使用者を前記有限会社鴻文堂書店、車名を「トヨタ」、登録番号を「多摩四四せ四二五八」とする虚偽の自動車新規登録申請をし、情を知らない同係員をして登録原本である自動車登録フアイルに使用の本拠の位置が「調布市上布田町三五三」である旨不実の記載をさせ、即時同所にこれを備え付けさせて行使し、

第五、被告人新居、同新内の両名は、東海林節夫と共謀のうえ、

一、同年六月一五日ころ、前記営業所において、行使の目的をもつて、ほしいままに、自動車保管場所使用承諾書用紙を使用して、自動車の保管場所の位置欄に「調布市上布田町三五四」、使用者の住所欄に「調布市上布田町三五三」、使用の期間欄に「昭和四六年六月一五日から昭和四七年六月一五日まで」と各真実と異なる事項を記載し、使用者の氏名又は名称欄に「佐藤五郎」と記載し、作成名義人欄に「鈴木留吉」と冒書したうえ、その名下に有りあわせの鈴木と刻した印を冒捺し、もつて、同人作成名義の自動車保管場所使用承諾書一通の偽造を遂げ、これを真正に成立したもののように装つて、同月一七日ころ、前記調布警察署において、同警察署長に対し、情を知らない佐藤澄子を介して提出行使し、

二、同月二八日ころ、前記多摩支所において、同支所係員に対し、情を知らない金塚繁太郎を介して、使用者である北越工業株式会社(代表取締役佐藤五郎)の真実の「使用の本拠の位置」が同都千代田区神田駿河台二丁目一番地であるのに、これを「調布市上布田町」と記載した虚偽の自動車登録申請書に、その添付書類として、前記第五―一によつて発行を受けた調布警察署長作成名義の保管場所の位置を「東京都調布市上布田町三五四」、使用の本拠の位置を「東京都調布市上布田町三五四」と、それぞれ真実と異なる内容の記載がある自動車保管場所証明書、及び、前記第五―一の際複写して作成偽造していた第五―一と同一内容の鈴木留吉作成名義の虚偽の自動車保管場所使用承諾書を添え、これらがいずれも偽造又は内容虚偽であることの情を知りながら、あたかも真正に成立したもののように装つて一括提出行使し、もつて、使用者を前記北越工業株式会社、車名を「トヨタ」、登録番号を「多摩五五ね三一六三」とする虚偽の自動車新規登録申請をし、情を知らない同係員をして登録原本である自動車登録フアイルに使用の本拠の位置が「調布市上布田町」である旨の不実の記載をさせ、即時同所にこれを備え付けさせて行使し、

第六、被告人新居は、東海林節夫、今井正夫、矢後隆と共謀のうえ、同年五月二八日ころ、前記営業所において、行使の目的をもつて、ほしいままに、自動車保管場所使用承諾書用紙を使用して自動車の保管場所の位置欄に「調布市上布田町三五四」、使用者の住所欄に「調布市上布田町三五三」、使用の期間欄に「昭和四六年五月二八日から昭和四七年五月三一日まで」と各真実と異なる事項を記載し、使用者の氏名又は名称欄に「高橋映雄」と記載し、作成名義人欄に「鈴木留吉」と冒書したうえ、その名下に有りあわせの鈴木と刻した印を冒捺し、もつて、同人作成名義の自動車保管場所使用承諾書一通の偽造を遂げ、これを真正に成立したもののように装つて、同月二八日ころ、前記調布警察署において、同警察署長に対し、情を知らない佐藤澄子を介して提出行使し

たものである。

(証拠の標目)(省略)

(無罪の主張に対する判断)

被告人両名は、判示の各犯行について無罪を主張しているので以下判断をする。

第一、本件各私文書偽造、同行使について

一、被告人両名は、本件の鈴木留吉作成名義の自動車保管場所使用承諾書(以下本件承諾書と略称する)は、いずれもトヨタ東京カローラ株式会社調布営業所の業務係である東海林節夫ないし同人の指示を受けたセールスマン等が鈴木留吉と署名を手書し、東海林が手元にある鈴木名の有合印を右署名の下に押捺して作成したものであるが、これは東海林が鈴木留吉から本件土地の管理と本件承諾書の作成をまかされていると考えてやつていたものであり、被告人両名も、東海林が本件承諾書を偽造しているとは思わず、本件の各犯行について故意ないし共謀もないと主張する。

二、しかし、前掲各証拠によると、本件土地は、昭和四二年ころ、トヨタ東京カローラ株式会社(以下本社と略称する)が、鈴木留吉と一時使用賃貸借契約を結んで、同人から借り受け、その後更新を重ねたもので、右契約によれば、本件土地を調布営業所の駐車場として使用することを目的とし、これを有料駐車場に転用したり、第三者に転貸したり使用権を他に譲渡することはできず、同営業所が本件土地を顧客のため自動車の保管場所として使用することは右契約に違反するところであるが、東海林は同営業所の業務係として所長の業務を直接補佐する立場にあり、その職責上同営業所の駐車場の権利関係について充分注意すべきであること、鈴木留吉との間の前記の契約更新にも毎回立会つていることから契約内容について知悉しているはずであること、本件に関係している顧客は鈴木留吉と一面識もなく、同人から本件土地の使用の承諾を受けたことがないうえに鈴木留吉も東海林に対し、契約外で本件土地を顧客のために車の保管場所として使用することを明示又は黙示に承諾したことはなく、本件各承諾書が作成されていたことは全く知らなかつたこと、仮に、東海林から承諾を求められても多数の顧客のための自動車保管場所として使用させるなどのことを許す意思は全くなかつたこと、がそれぞれ認められ更に東海林は全証拠を徴しても、被告人新居や他のセールスマン達に対して鈴木留吉から承諾を受けていることを窺わせるに足る言動を何等していないことなど綜合して考慮すれば、東海林は司法警察員に対する供述調書(昭和四六年一〇月一九日付)において述べているように、鈴木留吉に対し、顧客の自動車保管場所として使用するための承諾を求めても同人は到底承諾してくれないものと考えて、有合せの鈴木名の印を用いて本件の各承諾書を偽造したと認めるのが相当である。

三、前掲各証拠によると、被告人新居は調布営業所の所長で部下職員を指揮、監督し、同営業所の事務全般を統括する立場にあり、その職務の中心が同営業所に所属するセールスマンを管理監督して新車販売の促進を図ることにあるにしても、新車を購入した顧客はその登録申請を前記のとおり、ほとんどセールスマンに依頼することからしてこれは同営業所の日常の重要な業務の一つといつてよく、所長としては絶えず部下に対する指揮、指示又は決裁、報告などの形でその内容を把握していなければならず、一業務係にのみこれをまかせて関知しないなどといえるものではないこと、東海林は鈴木留吉方に契約の更新に出掛ける場合にはその都度被告人新居にことわつており、契約更新成立後に報告をしていること、被告人新居と東海林は賃料の高低について話し合うなど契約内容について種々検討していることが窺えること、被告人新居は調布営業所に赴任して以来、同営業所が本件土地を来客のための駐車場としてのみ使用し、顧客の自動車保管場所として使用されることのないことを知つていたこと、東海林が本件承諾書を鈴木留吉方に行かずに捺印作成していることを知つていること、被告人新居が鈴木留吉や東海林に対し承諾の有無について確認をしていないこと、がそれぞれ認められ、これらの事実によると被告人新居は、東海林が本件各承諾書を偽造していることを知つており、そのため同人や鈴木留吉に、あえて確認を求めなかつたことが明らかであり、更に、同営業所事務所における被告人新居と東海林の机の間隔は一メートル位で被告人新居は東海林の仕事内容を後からよく知ることができ、同人の机のところに同営業所のセールスマン達が来て、車庫のない顧客のため車庫証明をとつてもらいたい旨依頼しているのを聞きながら特にこれを制止せず、その後、東海林から本社に送付するため偽造された本件承諾書を含む新車登録に関する一件書類が決裁のため提出されても、これに対し異議なく決裁をしていること、被告人新居は自分が留守の場合には東海林に決裁用の印を渡し決裁の代行をさせているが、その場合でも同人は被告人新居と同様に決裁をし、事後に同人は報告をしていることが認められ、被告人新居は検察官の取調べに対して東海林が虚偽の車庫証明をとるのを黙認していたこと、これが法律にふれることはわかつていたが、ノルマ達成のため仕方がなかつた旨供述しているところ、同人は、昭和四九年九月一四日退社し、退社後の検察官の取調べに対しても従前と同旨の詳細な供述を重ねていることからして右内容は充分措信しうるものであることなどを考慮すれば被告人新居は、本件承諾書が東海林によつて偽造されたものであることを知つており、同人がこれを利用して調布警察署長発行の内容虚偽の自動車保管場所証明書を取得したうえ、後記の不正登録申請をしようとしているのを認識し、これを容認していたものであつて、本件各私文書偽造同行使について東海林らとの共謀関係は充分認められるところである。

四、以上のとおり、被告人新居と東海林との共謀関係が認められるうえに、被告人新内は、前掲各証拠によると調布営業所の新車課の係員(セールスマン)で、前記のとおり同営業所が本件土地を来客用の駐車場としてのみ使用し、顧客の自動車保管場所として使用することがなかつたことを知つていたこと、鈴木留吉が本件土地を多数の顧客の自動車保管場所として使用することを承諾するはずがないと思つており、又東海林がセールスマン達に対して鈴木留吉から承諾を得ている旨の言動をとつていないのに、被告人新内を含むセールスマン達が東海林に対して車庫証明をとつてくれる様依頼していることが認められ、これらの事情を考慮すれば、東海林が鈴木留吉の名義を冒用して本件承諾書を作成し、虚偽の車庫証明をとつていることを、被告人新内をはじめセールスマン達は知つていたことが明らかであり、被告人新内は、検察官に対する取調べにおいて、本件土地は同営業所が鈴木留吉から駐車場として借りたもので、車庫として使える場所ではなく、現実に車庫として使つていなかつたので、本件承諾書が虚偽のものであることを知つていた旨述べているところ、これは同被告人が昭和四七年四月三〇日退職した後になされたものであつてみればその内容は充分措信しうるものであり、更に、被告人新内が本件各承諾書及び自動車保管場所証明書の作成に一部関与していることが認められ、以上の事実によると、被告人新内は、東海林が本件承諾書を偽造するものであることを知りながら、顧客からの依頼を受けて新車の登録をするために同人にこれを依頼したものであり、本件の各私文書偽造、同行使について、被告人新居、東海林との共謀は充分認められるところである。

第二、本件各公正証書原本不実記載、同行使について

一、被告人新居は、東海林と被告人新内を含む調布営業所のセールスマンと共謀して、事情を知らない東京都陸運事務所多摩支所の係員をして自動車登録フアイルに不実の記載をさせ、即時、同所に備付けて行使させたことについて実行行為はもとより共謀していない旨主張する。

しかし、前記認定のごとく、被告人新居は調布営業所において東海林らと共謀して本件各承諾書を偽造し、これを行使して、調布警察署長発行の内容虚偽の自動車保管場所証明書を取得したが、前掲各証拠によれば、東京都以外の他県の居住者に新車を販売する場合や、顧客が車庫を持たない場合等にこれらの書類は、これを添付した新規登録申請書とともに陸運事務所に提出し、自動車登録フアイルに不実の記載をさせ、行使するためのものであること、被告人新居は前記認定のごとくセールスマン達が東海林の机のところに来て、車庫のない顧客のために車庫証明をとつてもらいたい旨依頼しているのを聞きながら制止するどころか、その後、東海林から本社に送付するため提出された偽造された承諾書を含む新規登録申請に関する一件書類の決裁を異議なく決裁していたものであり、しかも回数が極めて多数であることが認められ、これらの事情を考慮すれば本件各公正証書原本不実記載、同行使について各セールスマンから東海林、被告人新居と順次の共謀がなされたものと認めるのが相当であり被告人新居に刑事責任のあることは明らかである。

二、被告人両名は、本件各公正証書原本不実記載、同行使の事実中、川上周夏、阿部路男、佐野譲二関係については、自動車登録フアイルの登録に虚偽の記載がなく無罪である旨主張する。

前掲各証拠によると、川上周夏の住所は東京都調布市国領四―四―四であるが、同人は前記の同都調布市上布田三五三に川上ビルを所有し、その五階に自分の事務所を持つていること、阿部路男と佐野譲二は保管場所である同都調布市上布田三五四に居住していること、このことからすれば「住所」は事実と一致し、「使用の本拠」が自動車を運行の用に供する場合において、その使用整備等の実施計画をたて、それに従つて自動車の使用を管理する場所であり、通常は自動車の使用者の住所がそれに該当するが、事務所においてそのような機能が営まれていれば、同様に該当することとなりその意味ではそれぞれ事実と合致することが認められる。

しかし、公正証書については、その記載内容が単に現実の権利関係と一致することだけでは「不実」の記載がないということにはならず、登録されるまでに正規の手続の履行がなされたか否かが重視されなければならない。

自動車登録制度について考えるに自動車は自動車登録フアイルに登録を受けたものでなければこれを運行の用に供してはならず、登録を自動車の運行要件としていること、登録を受けた自動車の所有権の得喪は、登録を受けなければ第三者に対抗できないことになつており、登録に自動車の所有権の公証を行う効力を付与していることなどを考慮すると、不動産の登記制度に匹敵するものといえよう。

川上周夏、阿部路男、佐野譲二に関する本件の新規登録の申請は判示のとおり偽造された本件承諾書に基づいて順次手続が進行して登録されるに至つたものであつて正規の手続の履行がなく、本来登録をなしえず、申請を却下すべきものを看過して登録されたものであり「不実」たるを妨げないものである。

よつて、右主張は採用できない。

第三、被告人両名は、同人らに判示の構成要件に該当する形式外観を有する行為があつても、右行為は本社幹部が新車販売の促進をはかるためこれを指示し、或は黙認していたため、やむを得ずやつたもので、会社末端の営業所の所長やセールスマンである被告人両名の行為には違法性が微弱であり他方、本件各行為によつて、自動車が自動車登録フアイルに登録されても、そのもたらす弊害は極めて軽微であり、何れから見ても本件の各行為は当該構成要件が予想する可罰的違法性を欠き無罪であると主張する。

前掲各証拠によると、本社幹部は、各営業所に対し、新車の販売台数を割当て、定期的に営業所長会議を召集して、販売促進のため督励をしていたこと、これが各営業所長やセールスマン達にとつて相当の負担過重となつていたことは認められるが、他方、本社幹部は常に各営業所長に対し、法律を守り、不正行為のないよう指示、通達をなしているうえに、営業所長会議でも車庫問題については営業所で努力して解決するよう督励はしているが、その具体的方法の指示はなかつたこと、本件の各行為が発覚した後、本社幹部は起訴された調布営業所々員に対して今回の行為は会社として極めて遺憾であり、今後このようなことのないよう説諭していることが認められ、被告人らの行為が本社幹部の意に反するものであつたことからして本社幹部の指示は、営業上の行為として容認しうる範囲に止つていたことが明かであり、営業所から送付を受けた本件新規登録に関する一件書類は、本社車両部車両課で点検したうえ、登録業者に委託して陸運事務所に申請することになつているところ、この点検は、書類の印が落ちていないかどうかという形式的なものに過ぎず、本社幹部が営業所の本件各行為を知悉しながらあえてこれを黙認していたとする根拠になり得ないものであること、他の営業所においても同種事案が発生しているが、同様の事情にあつたことがそれぞれ認められる。更に、被告人らの本件の各犯行によつて鈴木留吉をして知らないうちに違法行為に加担させられるという重大な結果を来たし、同人が保護司をやつていることなどを考慮すれば同人に対して法律上、社会上種々の不利益を与える結果となつたこと、前記のとおり被告人新内を含む同営業所のセールスマンにとつて本社の割当て販売車数は過重であり、同人達は会社のためノルマ達成に努力していた点は認められるが反面自己の歩合給その他の利益を求めて行動したことも否定できないこと、本件各行為によつて新車の登録がなされ、青空駐車、交通の障害など種々社会的弊害をもたらすことなど諸般の事情を考慮すれば、被告人両名の本件各行為が可罰的違法性のないものであるとは到底認めがたく、被告人両名の主張は採用することができない。

(法令の適用)

被告人新居明の判示第一の一、第二の一、第三の一、第四の一、第五の一、第六、被告人新内正彦の判示第二の一、第三の一、第四の一、第五の一の各所為中、有印私文書偽造の点は、刑法第六〇条、第一五九条第一項に同行使の点は、同法第六〇条、第一六一条第一項に、被告人新居明の判示第一の二、第二の二、第三の二、第四の二、第五の二、被告人新内正彦の判示第二の二、第三の二、第四の二、第五の二の各所為中、公正証書原本不実記載の点は、同法第六〇条、第一五七条第一項に、同行使の点は、同法第六〇条、第一五八条第一項にそれぞれ該当するところ、有印私文書偽造と同行使、公正証書原本不実記載と同行使との間にはそれぞれ手段、結果の関係があるので同法第五四条第一項後段、第一〇条によりそれぞれ犯情の重い偽造有印私文書行使、不実記載公正証書行使の各罪の刑によつて処断することとし、右不実記載公正証書行使の罪の刑中懲役刑を選択し、被告人両名の以上の罪は同法第四五条前段の併合罪なので、同法第四七条本文、第一〇条により最も重い判示第五の一の偽造有印私文書行使の罪の刑に法定の加重をし、右各刑期の範囲内で被告人新居明を懲役一〇月に、被告人新内正彦を懲役四月にそれぞれ処し、情状により同法第二五条第一項を適用して被告人両名に対し、それぞれ本裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予し、訴訟費用は刑事訴訟法第一八一条第一項本文を適用してその二分の一ずつを各被告人の負担とする。

よつて主文のとおり判決する。

犯罪一覧表(一)

〈省略〉

犯罪一覧表(二)

〈省略〉

犯罪一覧表(三)

〈省略〉

犯罪一覧表(四)

〈省略〉

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